昔、実家の庭には一面に芝が植えられていた。けれど、土が合わなかったせいか、あまり青々と茂るようにはならなかった。
一面の芝生はおそらく父の趣味だった。母は掘り起こして木を植えたい、とずっと言っていた。そのうち父が根負けしたようで、庭にはまず2本の大きな木が植えられた。
その周りを飼っていた2匹の犬がのんびり歩いていたり、芝生が広く残っているところを選んで、父がパターの練習をしていた。私の頭に残る、家族が揃っていた頃の風景である。
その後、私と妹は一人暮らしを始めるために家を出た。父は亡くなった。犬たちも今は庭の片隅に眠る。母は庭仕事に没頭するようになった。
私の知らない間にそれは趣味の域を超えて、ガーデニングは母の仕事になっていた。庭園の手入れの手伝い、と言っては、沖縄だの東北だの全国各地を飛び回っている。
とあるガーデニングショーで賞を取った年に「出品は今年で一区切りさせる」と母は呟いた。なにか証明みたいなものが欲しかったのかもしれない。
そして、叔母も巻き込んで、母の庭仕事は続く。