理研にいた頃、高校生の研究室ツアーに立ち会って、最後の質問コーナーで
「研究員をされている方たちは将来はやっぱり自分の研究室を持ちたいのですか?」
と聞かれたことがある。
私はキャリアは多様であるべきだと思っていたし、その高校生にもそういう考えを持ってもらえたら良いと思ったので、
「そうとは限らないですよ。必要なことを身につけて、違う道に進む人だっています。」
と答えたのだが、その直後に当時のボスが
「いやー、そうは言ってもやっぱり自分の研究室を持つことを目指さなきゃダメです。」
と言ったので、結局その高校生の頭の中でどういうふうに二つの真逆の答えが処理されたのかは分からない。「研究員の人と研究室の先生とで言っていることが違っていたなぁ」と覚えてくれていたら最高。結局、みんな違うこと考えている、というのが質問の答えでもある。
わたしにも、大学の時から延々と刷り込まれた、「PhDを取ったからには大学など学術機関に残って独立を目指すべき」という考え方がまだ残っているけど、研究に一生を捧げるのが美しい、みたいな思想が先行し過ぎて色々こじれていくのは困る。
*
今の研究室にはものすごく優秀な研究員がいて、彼女はCellやNature、各姉妹紙の論文を複数持っているのだが、独立する気はないように見える。
実は彼女は写真家でもある。特にフラメンコを撮るのを得意にしていて(どの場面がハイライトか知るために自身もフラメンコを習ったそう)、依頼を受けて写真を撮りに行くこともあるらしい。
「昔、某新聞社 (NYT)のEditorから連絡が来て、『この写真をフリーで使わせてもらえませんか』って聞いてきたの。それはおかしいわよ、って文句言ってやったのよ。」
と、昔あった出来事を教えてくれた。それはもちろん、とても腹立たしい話だけど、人の目を留めたってことだからちょっと嬉しい話でもあるよね。
以前のMarch for Scienceの記事で使わせてもらった写真は彼女が撮ったものなのだが、「これは載せちゃって良いの?」と聞いたら、「ささっと撮った写真だから、全然構わないのよ。わざわざ聞いてくれてありがとう。」と笑っていた。
研究も写真も、彼女の人生にとって同じくらい重要で、今の状況が快適だからそうしているのだろう。
彼女はとにかくマルチタレントな人なのでこれは極端な例に違いないのだが、それでも、こういう働き方ができるのは素敵なことだと思う。
何かに一生を捧げるも良し、複数の道で活躍するも良し。そして、成功者には敬意を。
写真はルーヴル美術館のイスラム美術部門で見かけたタイル画のひとつ。