Sの話 [1]

写真はある休日にラボへ行ったらデスクの上に置かれていたおやつと、添えられていた元同僚S(実は写真にほぼ本名が出ているが、文中ではイニシャルで。)からのメモ書き。嬉しかったので、撮った一枚。たまに見返すと、クロワッサンアマンドが無性に食べたくなる。

このブログにこれから綴っていきたいと思っている話題がいくつかあるが、それらと向き合おうという気になったのはシカゴにいた時の元同僚Sの存在が非常に大きい。彼にまつわる思い出話を書くことで、私が考えさせられたことを少しだけ炙り出したい。

研究職なので、政治のこと・社会問題のことは口に出さないポリシーです、とか言い出しかねない数年前の自分、本当は何の意見も持っていなかったくせに、気取ってんじゃねぇぞ。という気持ちで。

真冬の2月にシカゴで働き始めた。所属研究室は東海岸にある他大学からシカゴへ移ってきたばかりで、教授の他にアシスタントが一人、そして唯一の研究員がSだった。

未だどこか所在のない雰囲気が漂うラボで、Sは私によく話しかけてきてくれた。プロジェクトにまつわる話、前の大学に残って実験を続けている他のメンバーの話、そして彼がシンガポールの研究所にいた頃の話など。気の利いた返答もできない私によくぞ手を伸ばし続けてくれたものだと思う。

面倒見が良い彼は、異国で英語もまともに話せず、行きあったりばったりな生活をしている私のことを相当気にかけてくれた。「家具とか全然ないけど、まぁ寝床さえあれば全然やっていける。いざとなればラボにも住める。」と話したら心配になったらしく、「週末空いてる?IKEAに行こうよ」と車を出して連れて行ってくれた。彼の家ではよく手製の美味しいご飯をご馳走になって飲んだくれた。SのパートナーのTは、Sに彼の分と私の分の弁当をたまに持たせた。お礼を言うと、「ああ、別にお礼なんていいのに。あなたは私の料理の実験用ラットだし! (You are my food lab rat.. HA!)」なんて返された。

そのTが、いつだったか「結婚式のアルバム見る?」と言って、写真を見せてくれた。ウェディングドレスとタキシード姿、そしてTの出身国・インドの民族衣装を着た二人が写っていた。それはもう、雑誌に載るイメージ写真みたいだった。惚れ惚れと眺めさせてもらった。

さて一方のSはというと、ドイツ人である。

「僕の奥さんインド人で、彼女もアメリカで働いているんだ。」と聞かされた時、私は驚いた。

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